5兆円の円買い介入が示す「構造的円安」の現実──マレーシア・カンボジア不動産市場の論点

本記事は2026年5月10日配信のメルマガ【サンデーブリーフィングvol.4】に加筆修正したものです。

2026年4月30日、政府・日銀による円買い介入が約1年9ヶ月ぶりに実施されたとみられています。その規模は5兆円前後と推計され、5月6日にも比較的小規模な追加介入が行われた可能性があります。一連の介入を受けて、ドル円相場は一時155円付近まで円高方向に振れました。

しかし多くの市場関係者が指摘するように、為替介入はあくまでも対症療法に過ぎません。貿易・デジタル収支の恒常的な赤字、家計・企業による積極的な対外投資の拡大など、円安の根本的な構造要因は何も変わっていないからです。

今回は、この「5兆円を投じても根っこは変わらない」という現実を念頭に置きながら、マレーシアとカンボジアの不動産市場における最新の動向と投資の論点を整理します。

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為替介入は、急激な相場変動を和らげるための時間稼ぎの手段です。ドル買い・円売りが慢性的に積み上がる「需給の偏り」を解消する効果はなく、市場が再び動き出せば元の方向に戻りやすい性質を持っています。

円安の背景にある主な構造要因は以下のとおりです。

  • 貿易・デジタル収支の赤字:日本はエネルギー輸入や海外デジタルサービス(クラウド、ストリーミング等)への支払いが増加し続けており、円を売ってドルやユーロを買う需要が構造的に存在しています。
  • 家計・企業の対外投資:NISAの普及により、個人の海外株・外債への投資が急増しています。企業も生産拠点の海外移転を加速させており、円が売られる動きが続いています。
  • 日米金利差:日本銀行が慎重な利上げ姿勢を維持する一方、米国金利は依然として高水準にあります。金利差を狙った円キャリートレードの巻き戻しがあれば一時的に円高となりますが、基本的な圧力は変わりません。

円建て資産のみで資産を保有し続けることのリスクは、こうした構造的文脈の中で改めて考えていただく必要があります。海外資産を外貨建てで保有することは、単なる投資の多様化以上に、通貨リスクへの備えという意味を持ちつつあります。

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マレーシアの不動産市場は、過熱感や急騰とは無縁の、じっくりとした動きを続けています。2026年初時点での全国平均価格はRM495,000前後で、過去12ヶ月の価格変動はほぼ横ばいです。

ただし、横ばいというのは全国平均の話です。クアラルンプール(KL)市内でも、LRT・MRTなどの駅近エリアや、外国人需要が厚い中心部では、価格が着実に上昇しているエリアが存在します。不動産の成績は、エリアと物件タイプによって大きく異なります。また、ジョホールのように力強く上昇しているエリアもあります。

人口増加・都市化の継続・インフラ整備の進捗が主な成長エンジンです。

売買市場が比較的落ち着いている一方で、KLの賃貸市場は別の動きを見せています。KL全体の平均賃料はRM2,901(2026年初時点)で、前年同月6.1%の上昇。全国平均(RM2,020)を大きく上回るペースで賃料が伸びており、主要都市における賃貸需給は明らかに引き締まっています。

なぜ、売買価格は落ち着いているのに賃料が上がるのでしょうか。その背景には2つの要因があります。

  • 供給の減少:2025年の新規着工件数は前年同月12%の減少が報告されており、今後1〜2年の新規供給が絞られる見通しです。竣工物件の減少は、賃貸需要に対して供給が追いつかない状況を生み出します。
  • 売買市場との乖離:売買市場では売れ残り在庫の解消が課題となっているエリアもある一方で、賃貸市場では実需(居住目的の入居)が旺盛です。売買の需給と賃貸の需給は、独立して動くことがあります。

この状況が意味するのは、利回りの改善です。賃料(分子)が上がり、物件価格(分母)が横ばいであれば、グロス利回りは自然と改善します。現在KL中心部のコンドミニアムでは、5〜6%台のグロス利回りが報告される物件も増えてきており、以前より収益性の高い環境が生まれています。

さらに、供給が絞られる中で賃料上昇が続けば、それが投資需要を呼び込み、価格上昇のトリガーとなる可能性もあります。「賃料上昇→利回り改善→投資需要の流入→価格上昇」というサイクルの入口にある局面と捉えることができます。

クアラルンプール中心部、特にKLCC(ペトロナスツインタワー周辺)やブキッ・ビンタンエリアは、出張者・観光客・駐外員など短期滞在需要が年間を通じて厚く、ショートタームレンタル(AirBnb等)との相性が特に高いエリアです。

注目すべきは、価格水準の差です。シンガポールの同クラス物件と比べた場合、KLの価格水準は圧倒的に割安です。しかもシンガポールでは、外国人による不動産取得に対して60%の追加の税(ABSD)が課されるため、実質的な投資障壁は非常に高くなっています。

KLは「シンガポールに近く、シンガポール水準の需要を取り込めるが、価格は圧倒的に割安」という特性を持っています。稼働率と賃料単価の高さを維持しながら、仕込みやすく、回しやすい立地として注目が高まっています。

マレーシア最南端の都市、ジョホールバル(JB)でも注目すべき動きがあります。ジョホールバル〜シンガポール間を結ぶRTSリンク(Rapid Transit System Link)の開業が近づく中、ブキット・チャガー駅周辺ではすでに2年間で18%の価格上昇が確認されています。

RTSリンクは、現在慢性的な渋滞が問題となっているコーズウェイを避けて、ジョホールバル市街とシンガポールのウッドランズ駅を高速鉄道で結ぶプロジェクトです。所要時間は約5分と見込まれており、開業後はシンガポールで働きながらジョホールバルに住む越境生活者の大幅増加が期待されています。

シンガポールの生活コストは世界トップクラスです。住居費はその中でも特に高く、多くの外国人労働者や中間所得層がより安価な住居を求めてジョホールバルに移住しています。RTSリンクが開業すれば、この流れはさらに加速すると見込まれます。

開業前の現在はまだ「先行取得」の時間帯です。インフラ整備が市場に完全に織り込まれる前の段階では、価格が抑えられており、開業後の需要増加を先取りできる可能性があります。

2026年第1四半期のプノンペンにおけるアパートの表面利回りは、市内平均で約6.5%と報告されています(一部エリアでは最大7.4%)。日本国内の不動産投資で4〜5%が一般的とされることを考えると、相対的に高い水準です。

さらに、カンボジアの大きな特徴として、賃料収入が米ドル建てで発生する点があります。円安局面においてドル建て資産を持つことは、為替変動リスクを構造的に低減することにつながります。これは、日本円建て資産しか持っていない投資家にとって特に重要な特性です。

カンボジアでは、不動産の売却益に対する20%のキャピタルゲイン税(CGT)の導入が計画されてきました。もともとは2020年に導入予定だったものが、コロナの影響や不動産市場の低迷を受けて毎年延期が繰り返されてきた経緯があります。

2026年1月5日付のカンボジア大手不動産ポータルの報道によれば、政府はCGTの不動産への適用を2027年1月まで再度延期することを発表しました。これにより、2026年中に取得・売却する物件には、従来どおり軽い税負担が維持されます。

この状況は、2つの観点から投資タイミングを考えるきっかけになります。

  • 出口タイミングの検討:すでに保有している物件の売却を2026年中に前倒しするインセンティブが生まれています。CGT本格導入前に売却することで、税負担を大幅に軽減できる可能性があります。

2025年9月、プノンペン南部のカンダール州にテチョ国際空港(Techo International Airport)が開港しました。これによりプノンペンの航空アクセスが大幅に改善され、国際都市としての位置づけが着実に変わりつつあります。

新空港周辺エリア(カンダール州南部)は、今後の不動産価値上昇が期待される新たな注目エリアとして浮上しています。RTSリンクとジョホールバルの関係性に類似したインフラ先行・価格後追いのパターンが、プノンペン郊外でも起きつつあると言えます。

今回整理した情報から、いくつかの投資上の論点が浮かび上がります。

エリア現状と投資のポイント
マレーシア(KL)売買価格が横ばいの中、賃料は前年同月6%超のペースで上昇中。新規供給の減少も重なり、利回りは改善傾向。「シンガポール水準の需要×圧倒的な割安さ」が魅力。
ジョホールバルRTSリンク開業前という「先行期間」。開業後の越境生活者(実需)増加を先取りする形での取得がまだ可能なタイミング。
カンボジア(プノンペン)ドル建ての高利回り(市内平均6.5%前後)が継続中。キャピタルゲイン税は2027年まで延期されており、2026年は税制面での移行期。新空港開港による成長余地も。

そして背景にあるのは、5兆円を投じても変わらない「円の構造的弱さ」です。政府の介入で一時的に円高になっても、貿易収支の赤字やデジタル収支の流出、対外投資の拡大といった根本的な圧力は続きます。円建て資産の比率をどう考えるか、あらためて確認してみる価値があるかもしれません。


今回取り上げたマレーシア・カンボジア市場の詳細について、セミナーにてご説明しております。個別の物件情報や投資シミュレーションも含めてご案内しますので、ご関心のある方はお気軽にご参加ください。

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※本記事は不動産投資に関する情報提供を目的としており、特定の投資行動を推奨するものではありません。投資にはリスクが伴い、為替・市場環境により実際の収益は変動します。投資判断はご自身の責任において行ってください。